研究室の音楽

仕事中は研究室で音楽を聴いています。

EL34シングルアンプ10:LTspiceの利用⑥

回路解析した結果もからも現在のところからこのEL34シングルの改造方針は
1.    入力が大きくなっても歪まないようにすること
2.    (クリッピングする前の)歪を少し軽減すること
になります。アウトプットトランスや電源トランス(電源)を変えない(あるいは整流回路をダイオードにしない、かつ、まず100Vで動かす)となると出力段を動かす余地はあまりないですので、前段を動かすことを考えます。このために6SL7のロードラインを見てみましょう。グリッド電圧は0.5Vずつ動かしています。

6SL7ロードライン

 


緑のラインがオリジナルのロードラインです(パラレル接続でのロードラインをLTspiceで書かせています)。動作点は150Vで1.4mAほどです。バイアスは1.6V程度です。このロードラインでは1.6p-pの入力が入ると約50Vずつ±に振れます。次にEL34のロードラインを載せます。グリッド電圧は5Vずつ動かしています

EL34ロードライン


青色が100Vでのロードラインでですが動作点は290V-50mA程度のところで20V強入力が動いてしまえば確実にクリップします。実は116Vの電源で動かしても青のラインが緑のラインになって動作点が325V-66mAになる程度で25Vも動けば同じことです。ここから考えられるのは6SL7はEL34の能力よりもオーバードライブになっているという状況です。初段の6SL7はハイμ管で増幅率が高すぎるきらいがあるということでしょうか。それならばロードラインをもっと立てて効率を悪くすればいいことになりそうです。また、歪を少し軽減するためにはバイアスを深めにして入力が-に振れたときの増幅率が下がる(歪が大きくなる)部分を使えばよいと考えられます。この方針で初段のプレート抵抗とカソード抵抗の値をLTspice上で動かして検討したところ、プレート抵抗39k(低いですね)、カソード抵抗4.7kという値を得ました。(ここらあたりの値はのちの5結も考慮した値になっています。)ロードラインは先ほどの図の赤線で動作点は240V-0. 8mA程度です。ずいぶん右下の部分でLTspiceで検討しなければこんなところを動作点に選ぶことはないのではと思うのですが、この値で1.6Vp-pの入力を与えた場合、6SL7のグリッド電圧0. 8V動くとEL34のグリッド電圧が大体20V強動くのが見て取れます。動作点が極端に思えるほど右に寄っているのはここの方が2次歪がでて全体としては打消しの効果が出るためと思え、それなりにリーゾナブルな動作点にも思えます。実際1.6Vp-pの入力を与えたとき、わずかにクリッピングがでて+側は+6.84V、-側は-6.34Vですから片側振幅の7.6%の歪です。この時のパワーは大体2. 7Wです。パワーが上がっているところで歪が改造前と同程度ですからまあ、うまくいっているものと思います。

このような歪の測定は出力が1Wとなるような入力を与えたときの全高調波歪を測定するものだそうです。そこで、そのような入力を与えてオリジナルと改良版の全高調波歪をLTspiceの.four 1kH V(Out)で測ってみました。今回の改造では0.634144%で諸先輩方の制作例から見ても少なくとも悪いという感じはしません。ちなみにオリジナルをただ3結にしたものの1W出力では2.998483%で完全に今回の改造版の方に分があります。ちなみに今回の改造で12kΩで帰還をかけると1Wを出す入力は0.48Vmax(0.96Vp-p) でTHDは0.450509%となります。

 

EL34シングルアンプ9:LTspiceの利用⑤

このオリジナル(を3結にした無帰還)の回路で0.8p-pの入力を入れた場合、クリッピングのないきれいな出力に見えますが、出力は+側は5.0Vまでしか振れないのに対して-側は-5. 48Vまで振れます。いわゆる2次歪(+高次歪み)です。ロードライン上でグリッド電圧が-側に振れた場合(出力は+側に振れます)の方が+側に振れた場合よりもプレート電圧・電流の動きが小さくなることが主な原因です。プレート曲線の間隔が右に行く方が狭くなっている形で現れます。EL34のような多極管を3結で使った場合は300Bなどの3極管をそのまま使うより、これが顕著になるそうです。しかしここで、そもそも論ですが真空管をなぜアンプで使うかについては、そもそもこの2次歪が心地よいからだという考えがあるそうです。半導体(やそれを使ったIC)では真空管よりもはるかに直線性は悪いですが、有り余る増幅率を負帰還にまわして、真空管よりもはるかに低歪の回路が作れます。何が要点かというと真空管をわざわざ使うという以上、この2次歪を全く消す必要はないと思われますし、どれくらい残すのがいいのかというのもわからないのだろうという点です。それでも今回のこの差は少し大きいので検討してみましょう。まず、初段についてその出力を見てみます。結合コンデンサの後、EL34の第1グリッドの前にカーソルを合わせて電圧を出力させます。(シミュレートしなおす必要はないです。)

前段の出力曲線


この前段は+16.38V、-16. 74V動いています。その差は片側振幅の2%ほどです。出力時には8%ほどあったわけですから初段はさほど歪を生み出していません。6SL7は直線性に優れた素子ということでしょうか。実はこれはいいこととは単純には言えないようで、なぜなら真空管回路は反転増幅なので初段で生まれた歪は出力段の歪を打ち消す方向に動きます。今回は初段の歪は出力段の歪を打ち消すには至っていない、つまり、初段での歪はもっと大きい方がよいと考えることもできるわけです。改良ではこの点を考えに入れます。

EL34シングルアンプ8:LTspiceの利用④

LTspiceで現状で改造した3結(+無帰還)状態がどんなものかシミュレートしてみましょう。真空管アンプにおいては最大出力が一つの目標のようです。出力がクリップする直前の出力のようですが、それを与える入力レベルが適当でないと使い勝手が悪いです。なのでライン入力のレベルについてちょっとグーグル先生に聞いてみました。

「プロ向け機器のラインレベルは+4 dBu(=1.228 V)と規定されており、コンシューマ向け機器ははっきりと決められているわけではないが-10 dBV(=0.316 V)となっていることが多い。」これは実効値のようですので最大値にすると1.4142x1.228=-1.7366~1.7366(≒3.47p-p)、1.4142x0.316=-0.446~0.446(≒0.9p-p)にそれぞれなるのかな。

この条件で1kHz入力時でのオリジナル(から3結に改造した)回路での8Ω負荷時の出力波形を見てみましょう。(100V入力での解析です。)ついでなのでNFB抵抗2Ω、10Ω、15Ω、を入れたときの波形も吐かせています。

8V(p-p)入力時

赤のきれいな波形はNFB抵抗が2kの時の波形です。せっかくの3結ですしこのような多量のNFBはかけたくないですね。そのほかの条件では上も下もクリッピングしてしまうことが見て取れます。では無帰還でどれほどの入力ならクリッピングしないか、入力信号を0.8Vp-pから1.6Vp-pまで変えて検討してみると

400mV(0.8Vp-p)の時にはクリッピングがありませんが、1.0Vp-pの時はすでに下側がクリッピングしています。上は1.4Vp-pまでは大丈夫なようです。ではこの0.8Vp-p時にどれくらいの出力が出ているかというと8Ω負荷で5Vmaxと見れますから5x5/2/8=1.56Wということになります。

これが最大出力ということになるのでしょうか。この時の電圧利得は13倍、約22dBです。これが元々の状態ということになります。いまいちですよね。これを改良していくことを考えますが、本日はここまで

EL34シングルアンプ7:LTspiceの利用③

LTspiceを使ってこのEL34シングルアンプを研究してみましょう。

 

ampaudio.hatenablog.jp

まず、実機を使って各部の電圧を測定しておきます。このアンプはもともと110VACでの駆動を前提にしてあります。そこで、昇圧トランスで110Vを入れた場合と通常のコンセント100Vでの時を計測します。実際デジタルマルチメータで計測したところ昇圧トランスでは116V入力、コンセント入力では100Vでした。次に前回の解説のようにEL34と6SL7のモデルを用意し、LTspiceでアンプ回路を構築したうえで測定した各部の電圧を吐かせます。中林さんのライブラリには整流管もありますが、今回はチョークを通過したところからの、つまり、増幅回路だけのシミュレートです。出力トランスは同じく中林さんのページにあった東栄のトランスのパラメーターを少しいじったものを使っています。ページには実測からモデルの構築までの手順も詳細に書かれているので、そのうちきちっとシミュレートしようと思いますがまずはこれで十分でしょう。(あるいは前にあげた本にもトランスの構築の方法が記載されています。これを使ってもいいと思います。)トランスのシンボルは適当に作りました。

3結改造後100V入力での予想電位です。

実測の電位との比較を116V、100Vと示します。

良くシミュレートされていると思います。これを見てみるとHeaterの電圧が少々さがっていても真空管のパフォーマンスは大きくは落ちていないと思われます。

EL34シングルアンプ6:LTspiceの利用②

中林歩さんの真空管ライブラリをLTspiceで使ってみましょう。有名な5極管、KT88を例にとってみましょう。まず、ライブラリを展開してその中にあるKT88.incを自分のLTspiceの指定のフォルダにコピーします。私の場合はlib/mylibとなります。

このファイルをエディタで覗いてみます。

KT88.inc

.SUBCKTの後の記述を見ると、KT88は5極管ですが4極ビーム管のような記載になっていてピンアサインはプレート、第2グリッド、第1グリッド、カソードの順になっていることがわかります。また、このファイルはLTspice用ではないので、まず、^を**で置換して保存しておきます。

次にLTspiceを立ち上げます。まず、KT88.incを読み込みます。私の場合は".lib mylib/KT88.inc"です。そのうえでLTspiceで標準で用意されているPentrodeのシンボルを配置します。

しかし、このシンボルは5極、5ピンあるのでKT88.incのシンボルとしては使えません。そこでこのPentarodeシンボルを右クリックしてシンボルを呼び出します。そこで、5つあるピンのうち左の上にある第3グリッドのピンを消去します。そしてピンアサインもAnodeが1番、G2が2番、G1が3番、Cathodeを4番にかえます。これで、KT88.incのシンボルとして使えます。本物の5極管用にオリジナルのシンボルは残しておくべきなのでこれをPentrode2という名前(好きな名前でいいです)で保存します。こうしてできたシンボルをもう一度右クリックしてValueをKT88にすればこのシンボルがKT88.incにアサインされます。これを使ってG2に200VをかけたときのKT88の五極管としてのIp-Vp曲線を描いてみましょう。これはDCスイープを使えば簡単に書けます。以下がそのための回路とコマンドです。

これでランさせてプレートのところにカーソルを合わせて電流マークが出たところでクリックすれば目的の曲線が得られます。

データシートより少しIpが低く出ていますが、立派に曲線が書けています。実際は実機にて計測をしてパラメーターを少しいじれば(あるいは提供されているRを使ってincファイルを作れば)完璧でしょうが、とりあえずはこれで十分使えます。3極結合した場合や、バイアスが17Vの曲線とか、G2電圧が180Vの曲線なども簡単に書くことができてとても便利です。これを使って、EL34シングルアンプの回路を検討していきます。

EL34シングルアンプ5:LTspiceの利用①

学部自主研究も終わったので怒涛のような2月も終わりです。あとは年度締めの雑務が大量にありますが、6日休みを取らないと学科長室に呼びつけられてしまいます。またあわただしい1月になりそうです。

3つほど真空管パワーアンプを作製・修理してきましたが、これらに手を加えていきたいと思っています。その際にどんな挙動をするのかシミュレーターで検討できればとても便利です。真空管アンプは必要な素子が単純で回路構成からシミュレートしやすいと思いますが、肝心の真空管やトランスのモデルが手に入れにくいという問題がありました。以前のラインアンプに使用していた6J1や5654Wはこの本

 

 

を参考にしてデータシートから3結の場合のパラメータを推測して構築して大変便利でしたが、5極管の5極接合で第2グリッドの電圧を変えたり、UL接合を考えたりという場合は手が出ませんでした。何とかならないものかと思っていたところ中林歩さんがRを使用した真空管のインプリメンテーションを公開されていました。

ayumi.cava.jp

電脳時代の真空管アンプ設計というサイトです。ここでは特性曲線からパラメータを拾っていきそれを基にSpiceモデルを作製する手順が記載されていてまず。大変有意義なのですが、それでもパラメーターを拾うのは面倒ですし、(当研究室ではRが使えますが)Rは敷居が高いという方も多いと思います。ところがです、このページには付録として真空管のデータ:SPICE用真空管モデル(240種) Ver. 3.20 というページがあるではないですか。これを見てみると使いたい真空管の多くが載っています。これでSpiceがあればまずは問題なくシミュレートすることができます。ここではLTSpiceを使って、まずはこのEL34シングルアンプ

ampaudio.hatenablog.jp

 

を解析し、さらに改造案を考えていくようにしましょう。今日はここまで

6BM8プッシュプルアンプ・修理完了

3年ぶりの海外学会での発表が終わりました。午後はめぼしいプログラムもないのでホテルで一息、6BM8プッシュプルの記事をまとめてしまいます。普段よりも自由に使える時間が多いのは何より。

増幅回路に続けて上が出力段のバイアス回路(C電源)で下が電源回路です。

壊れている部分ですがB電源として出ていく直前のコンデンサーとの結線とRチャンネルへのB電源の配線が切れていたので、これをはんだ付けしました。回路図出は省いてあるヒーターも含めそのほかの結線は大丈夫そうだったので、切られている電源コードの先にACインレットを取り付けて通電してみました。真空管を挿して各電圧を見てみると出力段のバイアスが+となっているところがあり、おかしいです。これはオイルコンデンサがダメになって、前段のバイアスが漏れてきていると考えられるので0.02u(前回の図では0.2uとなっていますが間違いです。)のオイルコンデンサを0.1uのフィルムに交換しました。(ここでは220V近くがかかるものもあるので、手持ちで耐圧のある適当なものを入れました。時定数は後程改良の時に考えます。)同様に古典回路で反転側への入力へのオイルコンデンサもやられていて、これも同様に交換しました。残念ながらオイルコンデンサの音は体感できませんでした。そのほかには予想される電圧と大きく違うところはありませんでした。(感電防止の手袋をしておっかなびっくり、調べていきました。)ん?これ、直ったんじゃないの?ということで、バイアスを(かなり適当に)調整して、テストのスピーカーをつないで試してみたところ問題なく音が出ました。しばらく様子を見て暴走とかがないことを確認してシステムにいれて試聴しました。

プッシュプルであるのと段間のコンデンサの容量を増やしたので低音もしっかり出ている感じ。MC-10Tに比べれば当然パワーは見劣りしますが、普通に聴く分には十分でこれはダメだという感じはありません。むしろ、前の作者がいろいろとチューニングされていたようで結構聴いていて心地がいいです。これで一応修理は完了ですが、今後ゆっくりと

1.まず、仕上げとメインテナンス。ACインレットもきちっと穴をあけてケースに収まるようにして、スピーカー端子もバナナプラグのものに代えて4Ω出力も整備する。

2.ハムが少しあると思います。出力段のバイアス回路はよいとは思えないのでリプルを取って定電圧化するか、電源に手を入れたうえで自己バイアスにするか検討します。

3.時定数の検討をしていません。シミュレーターを使って帯域を調整していきたいです。

4.古典的反転回路はよくチューニングされているようですがやはり無理があるかと思います。半導体の差動の前段をつけることも考えて回路を考えてみたいと思います。

5.ここまでするときはかなりの改造になるので部品をすべて外して、シャシを塗装してみたいです。ワインレッドがいいかな。

といろいろと試してみたいですが、時間がないのでしばらくはこのままでしょうかね。